映画「恐竜が教えてくれたこと」公式サイト » Director’s Note

子どものころはすべてが単純に思えた。だが年を取るにつれ世界は自分が思うよりももっと複雑なものだと思うようになった。いずれ、誰しもにその時が来るように、人生の中で“もっとシリアスなこと”に向き合うことになった。そして、人生は一時的なものだとわかった。この先永遠に続くと信じている愛の関係さえ。それらは、ときに予期していたものより大きく違ってくることがある。私は20代のころに母親を亡くした。人生は虚無でしかないと強く思った。しかし同時にその経験は精神の回復を教えてくれ、実際に私は気持ちを持ち直した。母を失ったことで私は自分の人生をより強く生きていかなくてはならないと導かれている気がした。

3年前、アンナ・ウォルツの「ぼくとテスの秘密の七日間」を読んだとき、これが自分の初長編映画になると確信した。ワクワクする感情とユーモアあふれる素晴らしいミックス感がハートウォーミングな物語だと思った。さまざまな国でたくさんの熱心な読者がいるのは当然だ。どんな見方をしても僕のハートに寄り添ってくるし、10歳の主人公サム(映画では11歳の設定)にたくさん自分を重ねてしまう。原作本を映画の脚本にすることは大きな挑戦だった。もっと言えば自分で物語を作ることが。僕は映画化に成功したと信じている。特に脚本のラウラ・ファンダイクが素晴らしい仕事をしてくれた。重層的で心にグッとくる脚本だ。原作とは異なり映画の水準は幅広い客層に届くと信じている。若い人からお年寄りまで。もちろん少年少女にもね。

物語はリアルだ。キャラクターは時々ちょっと非現実的だけど、決して滑稽な風刺画のようにはならない、とても人間的なキャラクターを創り上げたかった。多面的な個性を持った人物たち、観た人が愛し、そして一体となるような。ほとんどの登場人物はちょっと個性的なところがある。原作でもそうだが、僕らは彼らの個性をあらゆるシーンで強調した。僕ら人間には、みんなそれぞれおかしな特性があると思うが、それは素晴らしいことで、大切なことだと思う。だから映画を観て、自分のユニークさを大事にすることがどんなに素晴らしいことなのか感じてほしい。人と違うということは実際、絶対的に普通なことだ。この映画では、オリジナリティの感覚を持つことの正しさを表現したかった。子どもたちが知覚している世界を表現しようとした。また、美しい景色を撮ることで、サムを大いなる全体の一部として感じてほしかった。島をさまようサムを観測するためにときどき俯瞰的にサムを撮った。そしてまた、美しい自然に囲まれたサムと同じ目線に戻り、彼をクロースアップすることで、少年が感じたとても小さなことまで表現したんだ。